家元の寵愛≪壱≫
私がじっと彼の背中を見つめていると、
「ゆのちゃん、ちょっといいかしら?」
「はい?」
お義母様に手を引かれ、隼斗さんの元へ。
「隼斗」
「ん?」
精神を集中させていたのか、
少し険しい顔つきで振り返った隼斗さん。
「ゆの」
私の姿を目にして少し表情を和らげた。
スッと立ち上がった彼は、
墨色のお召に無地に近い薄墨色の縞袴姿。
雅やかなその装いは“家元”の風格を醸し出している。
あまりのカッコ良さに見惚れていると、
「隼斗、じきにお客様がいらっしゃるわ。そうしたら夜までほとんど席を立てないから、今のうちに充電しておきなさい」
「え?」
「ゆのちゃん。ほら、あなたの仕事よ?」
「へ?」
お義母様にポンと背中を押され、
隼斗さんの元へ歩み寄る。
「母さん、いいの?」
「10分よ!?」
「サンキュ!!」
隼斗さんは床几台から下りて、私の手を掴んだ。