脱力系彼氏
「やっほ!」

テンションの低い声が、開いたカーテンから聞こえてきた。あたしが顔を上げると、制服のままの冴子が、いつものようにニヤリと笑ってベッドに近付いて来た。

「冴子」

「綾、カーテン開けておきなよ。暑苦しいし、引き籠もりみたい」

冴子はすぐに細い眉を顰めて、勝手にカーテンを開けた。

「あんた、お隣りさんと仲良くなろうって気はないの? 友好的になりなよ。今の時代、平和が1番だよ?」

冴子に言われたくない。いつも眉を顰めていて、全く人を寄せ付けないくせに。
そう、口に出来る訳もなくて、あたしは小さく笑った。

冴子が全開にしたカーテンからは、広い病室が一望できた。初めて横のおばさんの顔を見て、軽く会釈しておいた。

あたしが冴子に視線を戻すと、冴子は白い買い物袋をブラブラさせた。

「お見舞い持ってきたよーん」

「え、なになに?」

冴子は自慢げに笑うと、袋から真っ赤な果実を取り出した。

「お見舞いって言ったら、やっぱコレでしょ。リンゴ」

「それは固定観念ってやつじゃ……」

「うるさい、黙れ!」

冴子はギロリと睨んで、重そうな袋を床に置いた。


……一体、どれだけ買ってきたのだろう。

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