脱力系彼氏
 冴子は視線を落としたまま、咥えた指をそっと口から出した。まだ、血がじわりと滲み出ている。

「アイツなら、来ないよ」

胸が、締め付けられる。

分かっていたのに。分かっていたはずなのに。声が、消えそうになる。

「ど、して……?」

指からは、まだ、痛々しいくらいに血が溢れている。冴子はじっとそれを見つめているのに、溢れて流れていく血を止めようとしない。

「アイツ、今、停学中だから」


え……?

停、学?


「どうして、停学なんか……?」

単純に、驚いた。
だって、昇ちゃんなら、間違いなく停学になるような事はしない。停学になったら、物凄い量の課題と、反省文を何枚も書かされる。そんな事は絶対に避けるはず。

血がスカートに落ちた事に気づき、冴子はようやくタオルで傷口を押さえた。

「……2、3日は自宅謹慎だと思う」

質問の答えにはなっていなかったけれど、それは、あたしには凄く衝撃的で、複雑な言葉だった。
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