脱力系彼氏
隣りのベッドのおばさんが、親切にも絆創膏をくれて、冴子は素早く切り口に絆創膏を貼った。再び黙ったまま、もくもくとリンゴの皮を剥き始め、病室には蝉の声だけが響いていた。
冴子は棚の上にあったお皿をスカートの上に置いて、リンゴを食べやすい大きさに切り落とした。綺麗に全部切り落とすと、冴子は、「はい」と言って、あたしにお皿を渡した。
「ありがとう」
差し出されたお皿を受け取り、用意されていた爪楊枝で、1番小さなリンゴの破片を刺す。刺した穴からは、甘酸っぱそうな汁がじわりと溢れ出た。
冴子は再びツカツカと水道の方へ、リンゴの汁だらけになった手とナイフを洗いに行った。あたしは冴子を目で追いながら、剥いてくれたリンゴを口に運んだ。リンゴからは、予想通り甘酸っぱい味が口の中に広がり、噛む度にしゃりりと音が鳴った。
冴子が戻ってくると、ナイフに付いた水をタオルで拭き、キャップをして引き出しに直した。
「あたし、今日はもう帰るわ」
冴子が似合わない作り笑いを浮かべる。あたしにはそれを引き止める理由もなく、頷くしかなかった。
「また、明日来るね」
噛み砕いたリンゴを飲み込み、あたしが小さく、うん、と言うと、冴子は、いつもの偉そうな目をして、あたしの手元を指差した。
「ちゃんと全部食えよ」
「分かった」
あたしが返事をすると、冴子は少しだけ切なく笑い、じゃあ、と言って病室の出口へ向かった。冴子が出ていくのを見送り、もう1つ、リンゴを口に運ぶ。リンゴは、病院のご飯よりも何倍も美味しかった。甘いはずなのに、酸っぱさの方が少しだけ強くて、胸に、なぜか染み込んで来る。甘酸っぱいリンゴが、どこか切なかった。
冴子は棚の上にあったお皿をスカートの上に置いて、リンゴを食べやすい大きさに切り落とした。綺麗に全部切り落とすと、冴子は、「はい」と言って、あたしにお皿を渡した。
「ありがとう」
差し出されたお皿を受け取り、用意されていた爪楊枝で、1番小さなリンゴの破片を刺す。刺した穴からは、甘酸っぱそうな汁がじわりと溢れ出た。
冴子は再びツカツカと水道の方へ、リンゴの汁だらけになった手とナイフを洗いに行った。あたしは冴子を目で追いながら、剥いてくれたリンゴを口に運んだ。リンゴからは、予想通り甘酸っぱい味が口の中に広がり、噛む度にしゃりりと音が鳴った。
冴子が戻ってくると、ナイフに付いた水をタオルで拭き、キャップをして引き出しに直した。
「あたし、今日はもう帰るわ」
冴子が似合わない作り笑いを浮かべる。あたしにはそれを引き止める理由もなく、頷くしかなかった。
「また、明日来るね」
噛み砕いたリンゴを飲み込み、あたしが小さく、うん、と言うと、冴子は、いつもの偉そうな目をして、あたしの手元を指差した。
「ちゃんと全部食えよ」
「分かった」
あたしが返事をすると、冴子は少しだけ切なく笑い、じゃあ、と言って病室の出口へ向かった。冴子が出ていくのを見送り、もう1つ、リンゴを口に運ぶ。リンゴは、病院のご飯よりも何倍も美味しかった。甘いはずなのに、酸っぱさの方が少しだけ強くて、胸に、なぜか染み込んで来る。甘酸っぱいリンゴが、どこか切なかった。