脱力系彼氏
 病室には、もう、看護士さんの姿はなくて、ベッドのテーブルから朝食のトレイが綺麗さっぱり片付けられていた。
ゆっくり自分のベッドに戻り、腰掛ける。重い足を持ち上げてベッドに乗せると、一瞬、足に激痛が走り、自然と顔が歪んだ。


「はぁ……」

溜め息を吐いて、ぼんやりと見る気のないテレビをつけた。けれど、テレビの音声よりも先に耳に入ってきたのは、すっかり聞き慣れた穏やかな声だった。

「綾ちゃん、具合悪そうだねぇ」

テレビを見る間もなく、隣りのベッドのおばさんに視線をやる。

「ああ……何か、気分が悪くて」

「そうなの? 大丈夫?」

……大丈夫じゃない。だけど、あたしは気持ち程度の愛想笑いをしておいた。

「今日、終業式だね。成績表、返ってくるんじゃないの?」

おばさんは「嫌だねぇ」と言って、人懐っこく笑った。


そっか。今日、19日なんだ。

そんな当たり前の事を思い出して、あたしは、空返事をした。


そういえば、相手の運転主は謝りに来ていなかった。まぁ、どうでもいいけど。思わず、呆れて笑いが零れた。

おばさんは急に「トイレトイレ」と言って席を立ち、あたしは、何気なくさっきつけたテレビに目をやった。
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