ブラック王子に狙われて②
数分して、絢が動く物音が聞こえて来た。
ドレッサーから動いたっぽい。
何をしているのかは分からない。
彼女に背を向けるみたいに壁の方を向いて寝てるから。
再び静けさが訪れ、隣りのベッドに寝たのだろう。
部屋にはダブルのベッドが2つある。
さすが小金井建設。
リゾートホテルのスイート並みの設えに
この時ばかりはちょっと残念に感じた。
緊張感のある静寂。
エアコンの風音が妙に耳につき、
無意識に溜息が漏れ出した、次の瞬間。
掛けている肌掛けが軽く引っ張られた。
っ?!
瞑っていた瞼が開き、視界の壁をじっと見据えた、その時。
背後で布擦れの音と僅かに傾く振動を感じて
数秒後には、背中に絢のぬくもりを感じた。
「慧……くんっ」
「………ん?」
「ごめんね」
「別にいいよ」
「初めてのことで、動揺しただけだから……」
「分かってるから」
背中から回された手が、僅かに震えていた。
ゆっくりと体を反転させて、
肩をすぼめて縮こまる絢を抱き締め返す。
「怖がらせたいわけじゃないし、嫌がることをするつもりもないから」
「………ん」