死にたがりの魔法使いくんと死神ちゃん




「悪魔だー!魔界の奴らだーー!!」


大きな音がなった方から、叫びながら男の人が駆けて来る。何かから逃げて来るように。

その後に続くように、老若男女問わず、何人もの人が走って来る。



「…今、あの人間、魔界と言っていたか?」


魔王がぽつりと呟くように言う。


確かに、先頭を走っていた男の人は、『悪魔』『魔界の奴ら』と言っていた。…でも、何故?


元から、とても仲の良い関係とは言えなかったが、魔界の者が下界を襲ってくるなど、なかった。一昔前までは、当たり前の光景だったらしいのだが、先代の魔王、つまり、今目の前にいるこの子の一代前の魔王から、下界に手を出すことは、禁止されたはずなのだ。





「死神さん!魔王様!!」


魔王と2人、茫然としていた時、魔法使いが私たちの所に戻って来た。


「お2人とも、大丈夫ですか?」


「ええ、私たちは何とも」



魔法使いは、私たちに怪我がないか、交互に見渡す。


「のう、魔法使い。これは…一体、なんなのだ。わらわの…いや、魔界の者が、下界を襲っているのか…?」



魔王の声は、震えていた。かなり動揺しているようだ。


「それは………」



魔法使いが何か言おうとした時、目の届く範囲に悪魔たちの姿が見えてきた。



「魔王様、よく聞いて下さい。これから、死神さんと一緒に、城の中まで逃げて下さい」


「何故だ!何故わらわが魔界の者から、逃げなければならんのだ!わらわが、命じればあの者たちはっ…!!」


「今は、説明をしている時間がありません、」


魔王の言葉を遮り、魔法使いは話を続ける。



「詳しいことは、後程ご説明しますので、今はとにかく城へ。…死神さん、魔王様をお願いします」


決起迫る様子で魔法使いに言われ、私も未だ詳しいことは、わからないけど、こくりと頷く。



「わかったわ。後でちゃんと、私にも説明してくれるわよね?」


「もちろんです。さぁ、行って下さい」


「魔王様、行くわよ」



未だ納得がいってなさそうな魔王だったが、魔法使いの様子に何かを感じ取ったのか、私が促すと素直にその場を離れ始めた。




魔王と手を繋ぎ、城の方へと走って向かう。


チラリと、後ろを振り向く。
魔法使いは、大勢の悪魔たちと対峙していた。多勢に無勢。大丈夫かと心配していたのだが、次々と悪魔たちが凍っていくのが見えた。

……氷の魔法だ。

氷の魔法は、高度な技術が必要だと、昔、リーダたちに聞いたことがある。エルフも、魔法を使うのだ。しかし、リタさんが言うには、氷の魔法が使える者など、今までに見たことがないと言っていた。


つまり、あの魔法使いがかなり優秀で、力のある人だということだ。
城に仕えて、王様の側近なのも、頷けるような光景を、今私は目の当たりにしているのだ。


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