結婚白書Ⅰ 【違反切符】


夜の水族館

思ったよりも人が多い それもカップルばかり。

館内は照明を落とし 水槽の魚たちが幻想的に見える。

ジンベエザメは今夜も悠々と泳いでいた。



夜は深海魚たちの世界

デンキナマズの光は 昼間より華やかに輝いていた。



怪しげな光を放つ魚を面白そうに見入る彼女。

驚いたり感動したり 笑ったり顔をしかめたり 表情がくるくる変わる。

彼女の表情を見ているだけでも楽しくなる。



大きな水槽を遠巻きに見ているときだった

どこからか 女性の甲高いしゃべり声が聞こえてきた。



「ちょっと見てよ おっもしろーい あの魚変な顔 不細工ね

こっちのなんて なに これ 気持ち悪いわ 

よくこんなのを人に見せるわね 信じらんない

ねぇ ここじゃ見えないからあっちに行こうよ ほら 早く来てぇ」



声のほうを向くと お腹の大きな女性が 連れの男の腕を引っ張りながら

こっちに来るのが見えた。


なんだ~?

みんな静かに鑑賞してるってのに あの場違いな女は

連れはダンナか? 女房の言いなりだよ



「なんか 嫌な感じだね」



そう言って彼女を見ると 彼女の顔が強張っている。

一点を見つめた目が怖いくらいだった。

彼女の視線の先をたどると さっきの夫婦連れの男の方と彼女の視線が絡む。



「知り合い?」


「えぇ・・・」



その苦しげな声にハッとした。

あいつが二股男だ!



「和音さん 行こう」



相手の男に聞こえるように 彼女の名前を呼んだ。




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