結婚白書Ⅰ 【違反切符】


背広を着て来たのは正解だった。

彼女のお父さんをはじめ お母さん おばさん 

それに結婚して近くに住んでいる お姉さん夫婦まで勢ぞろい。


和室に通されて お袋に言われたとおり手をついて挨拶をした。



「ご挨拶が遅くなりました 初めまして 桐原高志です」



後のコトは良く覚えていない。

ただ・・・



「和音さんと 今後は結婚を前提に お付き合いさせて

いただきたいのですが・・・」


「こちらもよろしくお願いします  さぁ堅苦しい挨拶は もういいでしょう」



彼女のお父さんの言葉だけが 鮮明に思い出される。

食事が出されたが 緊張の中で食べた食事は 味を感じる余裕もなかった。

おばさんや お母さん お姉さんの質問攻めにもあった。



「おいおい あまり桐原君を責めないでくれ 

こっちのパワーに押されてるじゃないか 

男にとって この日が一番緊張するんだ 私も昔そうだった 

義則君もそうだっただろう?」



お父さんが お姉さんのダンナさんにも同意を求める話がでて場が和んだ。



「はぁ~緊張したー こんなに緊張したのは入社試験以来だな」


彼女の家を辞して駐車場に向かう途中 やっと体の強張りがとれた気がした。

僕の手に 彼女がそっと手を絡めてきた。



「ご苦労様 うふふ 高志さんカッコよかったわよ 

でもね ウチのお父さんも 相当緊張してたのよ

朝から家の中をウロウロして お母さんに 

”アナタ 少し落ち着いてください” なんて言われてたんだから」



その言葉に ほっとしたのは言うまでもない。




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