結婚白書Ⅰ 【違反切符】
夕方 俺を迎えにやってきた和音さんを お袋が強引に家に招きいれた。
さっきの俺とは違い
「初めまして 杉村和音と申します よろしくお願いいたします」
流れるように挨拶をしている。
「ご丁寧にありがとうございます こちらもよろしくお願いしますね
こんな素敵なお嬢さんが よくもウチのボンクラ息子と
お付き合いして下さる気になったわね もったいないわ~ ねぇお父さん」
なにが”ボンクラ息子”だよ 自分で仕組んだ縁談のクセに
よくもそんなこと言うよ。
和音さんはと見ると 初対面の俺の両親と余裕で話をしている。
互いの両親にも受け入れられたってことか
このまま結婚話が進んでいくんだろうなぁ
漠然とではあるは 自分が結婚を決めたのがわかった。
夜の空港は意外に混んでいた。
「Uターンラッシュが始まってるのね 座る場所もないくらい」
繋がれた手を 前に後ろに振りながら彼女が言う。
人であふれかえっているロビーは 息苦しいほどだった。
「展望デッキに行ってみようか」
飛行機が 立て続けに飛び立ち 夕暮れ時の空に吸い込まれていく。
空港ロビーの混雑がウソのように 展望デッキには人気がなかった。
建物内の空調の効いた快適さはなかったが 外の風は案外心地よかった。