結婚白書Ⅰ 【違反切符】

搭乗口まで見送ってくれた 彼女の潤んだ目が思い出された。


別れるのがこんなに寂しいなんて・・・ 

いままでは 帰省しても 三日もたてば暇で 東京が恋しくなったのに 

今日は ここを離れるのが辛い。



六日前の自分からは想像もできない心境だよ

寂しいけど 体の中は暖かい 誰かを想う気持ちって こんなに複雑だったかな


センチな気分に浸った自分が可笑しくなって だんだん顔が緩んでくる。

上昇を続ける機内で 安全のため正面に座っている客室乗務員が 

怪訝そうな顔をして俺を見ていた。







遠距離なりに交際を続けた俺たちは 1年後に結婚した。



「見合いなのに こんなに間をおくなんて・・・」 と 

親やおばさんたちにイヤミを言われながらも 自分たちの意見を通した。


あの後 すぐにでも結納を交わしたいと言ったお袋を叱りつけ

頼みもしない式場探しに奔走した 扶美子おばさんを説き伏せ

二人で話し合って事を進めた。





新婚旅行から帰ってきて 新居を整理していた彼女が

”ちょっと これ見て” と持ってきた物



違反切符



「あのときさ 話さなかったことがあるんだ 実は・・・」



思い出し笑いとともに浮かぶ あの出来事 。



「パトカーの警察官が面白い人でね

 ”こんなにスピードを出して、何か嫌なことでもあったの?” って聞くから

 ”いえ、良いことがあったんです 彼女にプロポーズして

OKをもらったんで”って答えたら  ”それは おめでとう!” と言われて

握手を求められて 違反切符をもらったんだ」


「あら あれってプロポーズだったの?」


「そのつもりだったんだけど・・・」



”ふぅん~” と言いながら、違反切符をヒラヒラさせていたが

やがて



「これ 記念に取っておきましょうよ」




そう言うと 紙の皺を丁寧に伸ばし アルバムの一ページに貼り付けた。



               


            ・・・『違反切符』 終 ・・・

               エピソードへつづく




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