結婚白書Ⅰ 【違反切符】

 
「今度は東京に遊びにおいでよ 案内するよ」


「本当? うーん それじゃ 来月ね 横浜で友達の結婚式があるから

寄ってもいい?」


「へぇー横浜に来るんだ」


「そうなの 同級生二人と一緒なんだけど 彼女たちは結婚式の次の日 

ディズニーランドに行くって言ってたから 私 どうしようか考えてたの」


「和音さん 一緒に行かなくていいの? なんなら 俺がそっちに行くよ」


「あっ いいの 私ね 絶叫系の乗り物苦手で 遊園地で遊べないの」


「遊園地ダメなんだ そうか 残念だな~」


「残念って 高志さん もしかしてそんなの大好きだったりする?

ごめんね つまらないヤツでしょう?」



彼女の不安そうな目がこっちを窺っている。



「そんなことないよ 遊園地じゃなくても楽しめるところを

探せばいいじゃないか」


「ありがとう よかったぁ じゃあ 日程がはっきりしたら知らせるわね」



デッキに搭乗案内のアナウンスが響いた。



「そろそろ行ったほうが・・・」



そう言って デッキ出口に歩き出した彼女を抱き寄せた。



「当分会えないね・・・」



彼女が”うん”と言って 俺のシャツを握り締めた。



「電話するよ 毎晩じゃ迷惑かな?」



腕の中で ”うぅん” と首を振る。



「俺 帰りが遅いけど 帰ったらメールするから それでいい?」



下を向いていた顔を持ち上げて 俺の顔をまじまじと見て言った。



「うん それでいい メール待ってるね」



その顔に ゆっくり顔を近づける。

目を閉じた彼女の顔は 俺を静かに受け止めた。




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