結婚白書Ⅰ 【違反切符】


私の嫌いな時が近づいていた

今日も空港は空いていた


東京への最終便 

出発ゲートの前は人も少なく 余計寂しさを感じる


別れが近づくと 素直に寂しいと言えなくて 二人とも無口になる

彼が いきなり私の手を引いて奥の通路に入った


抱きしめられて

唇が重なった


息をするのも忘れるくらい

周りの音も聞こえなくなるくらい

彼だけを感じていた





高志さんが東京に帰った数日後 朋ちゃんから電話をもらった

仕事のあと 食事をする約束をした



「はい 婚約のお祝い 気に入ってもらえると良いけど」



ジュエリーボックスだった



「兄貴 和音さんに会ってから ずいぶん変わったんですよ」


「変わったって 何が?」


「ほとんど帰省しなかったのに 一月おきに帰ってくるでしょう

それから 私に和音さんのこと 嬉しそうに話したり 

和音さんに ぞっこんなんですよねぇ」


「そんなこと・・・恥ずかしいじゃない 

朋ちゃんは付き合ってる人いないの?」


「いるには いるけど なんとなく一緒にいるだけで 

私って 恋愛にのめり込めないタイプみたい」



まるで人ごとのように 自分の恋愛を冷静に分析していた彼女が

この二年後 身を焦がす 激しい恋愛をすることになる


家族になる人

義理の妹になる彼女

これから私は 彼女の一番の理解者になってゆくのだった



「朋ちゃんと食事に行ったの 朋ちゃん 付き合ってる人がいるんだって」


「へぇ そうなんだ そんなこと 俺には言わなかったなぁ 

和音には話をしたんだ」


「来週 そっちに行くね」


「うん 楽しみにしてるよ」



電話のやりとりも あと2ヶ月


私達は もうすぐ結婚する







 ・・・ 『エピソード 大切な人』 終 ・・・ 





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