やわらかな夜
昼休み、俺は待ち合わせ場所の喫茶店へ足を向かわせた。

有村はもうすでにきていて、俺を待っていた。

彼女の向かい側の椅子に腰を下ろし、ウエイトレスにサンドイッチとコーヒーを頼んだ後、
「どうかしましたか?」

俺は有村に尋ねた。

尋ねたとたん、有村は言いにくそうに目を伏せた。

唇が動いて、
「――堕ろそうと思ってるの…」
と、言った。

一瞬、俺は何を言われたのかわからなかった。

「だからね…夫の子供を堕ろして、修司と一緒になろうって」

何も言わない俺に、有村が説明した。

説明されても、俺は答えることができなかった。
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