結婚白書Ⅱ 【恋する理由】
優しさの理由は・・・


夕方 家に帰り着いたが 食事をする気にならなかった

いぶかしがる母に



「ごめん 食べて来ちゃった」



そう告げて 早々に自分の部屋に引き上げた




”去年 親父が交通事故にあって大変だったんだ”



彼のお父さんの話は聞いていた

事故で重傷を負い 回復した現在も歩行困難で 介護が必要なこと

退院して自宅療養中で 寝たきりにならないように 家族が協力して

リハビリに励んでいると


でも 今日聞いた話は 私の予想を超えるものだった

保険の代理店を営むお父さんの事故は 彼の実家の生活を狂わせた

お母さんはお父さんの看病にかかりっきり

事務を手伝っていたお姉さん一人では 代理店の仕事をまかないきれず

お姉さんのご主人が 会社を辞めて仕事を手伝ってくれたそうだ


実家の危機的状況に 工藤君も仕事を辞めてUターンを決意した

そして 当時付き合っていた彼女とも別れて帰ってきたと・・・



「介護が必要な家族がいるのに 一緒に来てくれって言えなかった

でも その前に 彼女から別れを切り出されたけどね」



そう言って 寂しく笑った



「初めての土地で暮らすのも抵抗があるし 親の介護までは背負えない

そう言われたよ・・・あきらめるしかないじゃない 仕方ないよ」



彼の言葉と 和音ちゃんの言葉が重なった 



「仕方ないよ・・・」



工藤君と和音ちゃん

二人ともどれほどの思いをして 今の心境に落ち着いたのか



”私は 別れた彼女の替わりなの?”



知らなかったとはいえ よくも こんな残酷なことが言えたものだ

自分の言い放った言葉が悔やまれてならない



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