水面に浮かぶ月
「何です? あの人は」

「『club S』で、私の前にナンバーワンだった女よ。私にその座を奪われて、恨んでいるんでしょうね」


憎々しげに言う透子。

久世は厳しい目で、そんな透子を見やり、



「理由なんて何でもいいんです。でも、面倒な争いだけは避けてくださいね。この街では、小さな噂ひとつで物事が右にも左にも転ぶ結果になるんですから」

「わかってる」

「僕はあなたに賭けているんです。つまらないことで潰れてしまうようでは困るんですよ」

「わかってるって言ってるでしょ!」


わかってるわよ、そんなことくらい。



マナミがどんな手を使ってくるつもりなのかはわからないが、潰される前に潰してやる。

杞憂は芽のうちに摘み取っておくべきだから。


透子は唇を噛み締めた。



「あの女のことは、私の個人的な問題よ。私が解決するわ。だから、心配はいらない」


ずっとそうやって、私はこの街でのし上がってきたのだから。

今回だって、相手がマナミであろうと、同じことだ。


私の夢を――私と光希の将来を、邪魔するやつは許さない。



「久世くん。外に塩を撒いておいてちょうだい」


薄汚い女の匂いがして、気分が悪い。


それでも、開店前だ。

透子はひとまず気持ちを入れ替えるために深呼吸した。



「本当に、大丈夫なんですね?」

「しつこいわよ。私を誰だと思っているの? 遊びでこのお店を持ったわけじゃないんだから」

「そうでしたね。では、期待しておきます」


久世は笑みを返してきた。

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