奴隷戦士
その後、ぼくは花ちゃんを抱きしめ、彼女はなぜ自分がこうも取り乱してしまったのかを話し出した。
「私より一つ下に彦一(ヒコイチ)っていう近所の子がいたの」
彼女の声音は悲しそうで、なにより、語尾が過去形だった。
彼女いわく、その彦一とやらは剣を習っているのにもかかわらず、いじめられていたらしい。
彼女はそんな面倒なことに首を突っ込んでも、火の粉が自分に降りかかってくるのではないかと思い、放っておいた。
だが、彦一はいじめている奴から逃げている時に足を滑らせ、流れが速い川に落ちて死んでしまったらしい。
彼女は、それを自分が止めに入らなかったせいだと悔やんでいた。
だから、いじめられている人を見つけるとどうにかしたいと思うが、なかなか上手くいかないらしい。
「ふふ、かわいい人。ぼくを心配してくれているんだね、ありがとう」
照れくさいけれど、ぼくがお礼を言うと、花ちゃんが申し訳なさそうな顔をぼくに向けた。
「だいじょうぶだよ」
抱きしめているままの状態で、ぼくは花ちゃんの頭をゆっくり撫でながら言った。
なぜ抱きしめたままなのかと言うと、まぁ、寒いからくっついていたいっていうのもあるし、こうしていると独り占め出来ていると思えるからっていうぼくのわがままな理由であったりする。
ふいに花ちゃんがぼくの顔をじっと見つめた。
さっきまで密着していたので離れたらやっぱり寒い。
「ん?」
彼女は不思議そうな顔をしていた。
なぜ、と問うているようだった。