ビロードの口づけ 獣の森編


 自室に向かって階段を上りながらザキの言った事を反芻する。
 今回の事を軽く考えすぎていたようだ。

 誰かにさらわれたわけでもなければ、危険な目に遭ってもいない。
 城外にも出ていないし、ケガもなく無事に帰ってきたのだから、ほんの少し心配をかけただけだと思っていた。

 それがジンの心に動揺を生み、一歩間違えば王座を奪われていたかもしれない大事だとは考えてもみなかった。
 今回は大事に至る前にザキが阻止してくれたようだが。

 ジンの迷惑にならないよう肝に銘じつつ、彼の支えになるにはどうすればいいか考えた。

 交わる事でジンは力を得られると言うが、それだけというのも情けない。
 かといって獣社会の習慣もよくわかっていない自分にできる事があるのだろうか。

 よかれと思っても見当違いの事をしては、かえって迷惑になるだけのような気もする。

 人社会のいいところを獣社会にも取り入れてもらう、そんな橋渡しができれば——。

 そんな事を考えている内に部屋にたどり着いた。

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