ビロードの口づけ 獣の森編


 こんな風に獣のような格好で交わるのは初めてで、顔に熱が集まってくる。
 けれど未知の快感が次第に羞恥を上回っていった。

 激しく揺さぶられて、顔の横に垂らした髪が動きに合わせてゆらゆらと揺れる。

 唇からは絶え間なく、甘い声が漏れた。

 そんな自分の姿が、ふと数日前に目にした光景と重なった。

 侯爵邸のジンの部屋で、初めて目にした男女の交わり。
 想いを寄せるジンと敬愛する母であった事が、より大きな衝撃となって心を貫いた。

 二人の間に愛情はなかった。

 ジンは元々女に誘われれば応じるのが普通の種族だ。
 そして母は父だけを愛している。
 寂しさからジンに温もりを求めた事を後悔していた。
 二度と父を裏切らないと。

 二人の関係はジンが侯爵邸での役目を終えた時に途絶えた。
 それぞれの事情を聞いて過去の事と割り切れたつもりになっていた。

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