ビロードの口づけ 獣の森編


 サラリと恐ろしい事を言われて、クルミは苦笑に顔を引きつらせる。

 ではどうして母の誘いは受けたのだろう。
 後腐れなしの確約を取り付けていたとしても、後で気が変わってつきまとわれる可能性はある。

 母が強い香りを持っていたから?
 たとえ大きな力が得られたとしても、それだけで応じるにはリスクが高すぎる気がする。

 尋ねるとジンは、気まずそうに目を逸らした。


「焦っていたんだと思う。ザキがあんたを狙っているのは知っていた。腕力であいつに勝てるとは思えなかった。オレの力が及ばず、目の前であんたを奪われて食われてしまったら……そう考えただけで耐えられなかった。どうしても力が欲しくて、奥様の誘いは渡りに船だったんだ」


 母に関しては、十中八九関係が継続する事はないだろうと、ジンは予測していた。


「あの方はオレなんか眼中にない。あの方の世界の中心は常に旦那様だ」

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