ビロードの口づけ 獣の森編
ジンはクルミの学習時間に、時々母の話し相手をしていた。
その時の話題は常に父の事で、ジンは相づちを打ちながらそれを聞いていただけだという。
父がいかに素晴らしい人で、母がどれほど父を愛しているのか、そんな話に終始していた。
そして父に愛されていないのではないかと不安を抱えていたらしい。
両親は家同士の取り決めで、子どもの頃から結婚する事になっていた。
両家の交流はあったので、母は幼い頃から父を慕っていた。
だから、決められていた政略結婚でも母には幸せな結婚だった。
だが父の方はどうだったのか、母には分かっていなかった。
身体が弱く寝込む事の多い母は、あまり父の側にいる事も出来ない。
世継ぎを産めなかった事も負い目となった。
「奥様は少女のまま年齢だけ重ねたような人だ。あんたと違って外の世界に対する好奇心もなく、狭い貴族社会と屋敷の中だけが世界の全てだ。貴族社会が普通だと思っているから、貞操観念も薄いんだろう」
ジンの知る貴族社会では、夫婦の間に愛情はほとんどない。
伴侶以外と交わる事は珍しくないらしい。