ビロードの口づけ 獣の森編
同年代の子どもたちの中では、一番に人型になる術(すべ)を覚えたコウは、他の獣たちと違い、眠っている時も人型を維持できるらしい。
その才能がジンに見込まれて、侯爵家の監視要員に抜擢されたという事だ。
最強の獣である獣王のジンでさえ、眠る時は獣姿に戻っている。
そう考えるとコウの能力は希有で貴重なものではないだろうか。
素直に賞賛を口にすると、コウは照れくさそうに頭を掻いた。
「いやぁ、オレってそれしか能がないだけです。覚えたての事って、うまく出来たら嬉しいじゃないですか。調子に乗ってたら極めちゃったっていうか……。もう何年も人型のままなので元の姿がどんなだったか自分が忘れそうですよ」
コウのように大した力もなく飛び抜けた特殊能力があるわけでもない小柄な獣は、人型でいる方が普段の生活も便利だという。
コウは侯爵家に来てから、ほとんど人型のまま暮らしていたらしい。
人社会での生活も長いので、獣社会の掟や習慣は心得ていても、ものの考え方や価値観は人に近い。
「結月だからって子どもを作るために相手を選ぶのではなく、人のように生涯共に暮らしたいと思える相手と結ばれたいと思います。それに賛同してくれる女性を見つける事の方が難しいですけどね」