ビロードの口づけ 獣の森編


 おまけにジンは獣王になってから城を空けている事が多く、城内をあまり詳しく把握していない。
 使っていない部屋もたくさんあった。
 クルミの部屋はそのうちの一つだ。

 ジンはメガネを外して通路の奥を注視した。
 真っ直ぐ伸びた通路は、少し先で壁に突き当たっているように見える。
 だが途中に脇道もクルミの姿もない。

 突き当たりに別の通路があるのか、或いは途中の壁に何かからくりでもあるのか、どちらにせよ調べてみる必要がある。

 押さえていないと書棚は元に戻ってしまうようだ。

 コウが運んできた箱を前に置いて書棚を固定する。
 その間にライが携帯用の灯りを持ってきた。

 書棚が閉じてしまわないようにミユを見張りに残して、ジンとライは通路の奥に足を踏み入れた。

 途中にからくりがあるかもしれないので、壁や床を調べながら慎重に歩を進める。
 クルミの甘い香りは途絶える事なくずっと漂っていた。

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