ビロードの口づけ 獣の森編


 出口にたどり着いたようだ。
 薄明かりに向かって残りを一気に駆け抜ける。

 たどり着いた場所は、丸い塔の底だった。
 三階分くらいの高さに天井があるが、高さはもっとありそうだ。
 天井の少し下に四角い窓があり、そこから外の灯りが差し込んでいる。
 壁に沿うように石段が伸びて天井の中に消えていた。

 ジンたちが出てきた通路の正面に、外へ通じていると思われる扉がある。
 だが太い閂がはまっていて、そこから誰かが出た形跡はない。

 金具が錆び付いて滑りも悪そうな上に、見るからに重そうな閂を非力なクルミが外せるとは思えないが。

 少しは奮闘したのかもしれない。
 塔の中は通路よりもクルミの香りが濃い。
 しかし見渡す一階には彼女の姿はなかった。
 ——という事は。


「上のようだね」


 壁に沿った石段を辿ってジンが見上げた時、ライがそちらを指差した。

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