ビロードの口づけ 獣の森編
ザキと目が合ったクルミは軽く会釈した。
クルミをまじまじと見つめながらザキの口元に薄い笑みが浮かぶ。
「ふーん。顔を見るのは五年ぶりだが、昔より一層香りが濃くなったようだ。あの時はよくもやってくれたな。三日くらい鼻が利かなかったぞ」
「え……あなたはもしかして……」
顔をこわばらせてクルミが一歩退く。
コソコソと後ろに隠れて、ジンの背中でシャツがキュッと握られた。
クルミがザキに会うのは五年ぶりだ。
人型のザキとは初対面だろう。
すっかり怯えてしまったクルミの様子に、ザキが吹き出した。
「心配するな。今はおまえを食うつもりはない。八つ裂きにされたくないからな」
そう言って豪快に笑うザキを、クルミは呆気にとられて見つめた。