ビロードの口づけ 獣の森編


 ザキと目が合ったクルミは軽く会釈した。
 クルミをまじまじと見つめながらザキの口元に薄い笑みが浮かぶ。


「ふーん。顔を見るのは五年ぶりだが、昔より一層香りが濃くなったようだ。あの時はよくもやってくれたな。三日くらい鼻が利かなかったぞ」

「え……あなたはもしかして……」


 顔をこわばらせてクルミが一歩退く。
 コソコソと後ろに隠れて、ジンの背中でシャツがキュッと握られた。

 クルミがザキに会うのは五年ぶりだ。
 人型のザキとは初対面だろう。

 すっかり怯えてしまったクルミの様子に、ザキが吹き出した。


「心配するな。今はおまえを食うつもりはない。八つ裂きにされたくないからな」


 そう言って豪快に笑うザキを、クルミは呆気にとられて見つめた。

< 90 / 115 >

この作品をシェア

pagetop