ビロードの口づけ 獣の森編
ザキはミユから視線を逸らし言い淀む。
「いやぁ、おまえに不満があるわけじゃないんだが、どうも今年は勝手が違うっていうか……」
これまでのザキは獣王に反抗心を持つ乱暴者として、男女を問わず警戒されていた。
当然ながら結月での女性人気も低く、アピールしても受けてもらえない事が多かったらしい。
もっともザキのアピールにも問題はあった。
腕力が自慢とはいえ、目の前で生木をへし折って見せられたら大概の女は怯える。
能力値もそこそこ高く腕力では右に出る者がいないほど優秀だと自負していたザキは、不人気を理不尽に感じて益々荒れていた。
ところがジンに帰順して以来、評価は一変した。
王のジンが取り立てたというのも大きいが、ザキが森の巡視任務に就いてから争いが激減し、森の治安が向上したからだ。
おかげで今年の結月は女性人気もうなぎ登りで、これまでは一度も受けた事のない女からの誘いがいくつもあったらしい。