モルフェウスの誘惑 ※SS追加しました。
「えっ、……や、める?」

美雨は驚きを隠せなかった

「そっ、やめてもらう」

「てめぇ、美登!
何で、美雨が辞めなきゃなんねぇんだよ
だったら、俺が辞める
文句ないだろ?」

杜は美登に食って掛かった

「話は最後まで聞けよ、ったく
杜はいつからそんな熱い人間になったんだよ
本当だな
恋はここまで人を変えてしまうのかぁ」

涼しげな顔で美登が言った

「あのねぇ、お二人さん
いいかい?
辞めると言ってもまだ先の話
っで、何でかっていうとーーー
神村さんがどうやら戻って来るらしいよ」

神村と言えば、美雨が元いた
雑貨屋の店主だ

例の雑貨屋襲撃事件で
店の営業を断念せざるを得なかった

しかしながら
持ち前のバイタリティーで
また自ら世界各地を周り
店に並べる商品なんかを直に仕入れていた

その神村が戻ってくるのだ

「オーナー戻るんですね?
私の所に来た絵はがきには
特に書いてありませんでした…」

美雨が少し顔を曇らせる

「美雨ちゃん、落ち込むことないよ
神村さんさ、僕に気を使ってくれててさ
ある程度、再オープンの目処がたってきたから人手が欲しいらしくて
勝手な話だけど美雨ちゃんに戻ってきてもらえないだろうかって
その断りの手紙を先に僕に寄越したんだよ
美雨ちゃんにはまた改めて話すって書いてたよ」

「そ、そうなんですか…
オーナー帰って来られるんですね
この前の絵ハガキはトルコからでしたけど…
それで、私…」

美登を伺う美雨

「ああ、勿論、僕は構わないよ
最初からそのつもりだしね
美雨ちゃんが雑貨屋のバイトは
嫌だって言うなら話は別だけど?」

美雨がなんと答えるかわかった上で美登が
笑いながら言う

「こちらに散々お世話になっておきながら
言いにくいのですが…
やはり、オーナーにお世話になっていたので
お手伝いしたいです
ただ…」

「ただ?」

美登の問いかけにそれまで
興味無さげに外を見ていた杜が答える

「心配なんだろ?
自分が戻ってまた、
店に迷惑かけるような事にでも
なりゃどうしようって
アンタが考えそうな事だ」

「あっ、はい…
私がお店に戻ってまた、事件にでも
なったらって思うと…」

「そうだよね、
僕も少しそれは考えてたんだ
だけど、まだ少し先の事だから
ゆっくり考えよう
もしかしたら、それまでに
犯人が、捕まるかもしれないし
それと、美雨ちゃん。
部屋はそのまま使ってよ」

「えっ、そんな、
これ以上甘えるわけには…」

「美雨ちゃん、僕の収入減らさないでよ
これでも、毎月のお家賃あてにしてんだからさ」

「美雨、俺の部屋に住んだっていいんだぞ」

「杜っ!」
「杜さんっ!」

美登と美雨の声が揃う

「冗談だろが…」

「付き合ってらんないよ
僕は仕事に戻る
とにかく、二人の気持ちが真面目なら
もう口出ししない
だけど、美雨ちゃんを泣かせるような事が
あったりしたらーーー
杜、僕は遠慮しないよ」

それだけいうと
美登はアトリエを後にした
本当はもっと早くその場から
立ち去りたかった
何故なら
美登は驚きを隠せないでいたからだ
杜が、
あの杜があれほどまでに
素直に自分の気持ちを
さらけ出していることに
表情は相変わらずぶっきらぼうな
ままでも
冗談をいったりした事にーーー



動揺していた



杜ーーーー

そう呟きながら
美登の手は固く握りしめられ
血管が浮き出るほどだった









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