モルフェウスの誘惑 ※SS追加しました。
***


刑事である岡崎は
神村が経営する雑貨屋の
ソファーを陣取り
画集をパラパラ捲りながら
そう、言った

「岡崎さん、その話、ご存知でしたか?」

「いえ、存じておりません
ここに書いてあったので
知ってるっぽく言ってみただけです」

と、悪びれる様子もなく話す
岡崎に対してよりも
美雨は
段々とその発言に慣れてきている
自分に驚いた

「だけど、モルフェウスとイリスは
見たこと有りますよ
実際のものを」

「えっ?」

意外な言葉に思わず声が出る

「そんなに驚くことじゃありませんよ
昨年ですね、ちょうど美雨さんが
ごたごたに巻き込まれている頃
日本に来てますよ、この絵」

「本当に?」

「ええ、僕はね
担当から外れたんですけど
一連の件を抱えてましたからね
それでまぁ、ちょうど、
同期が絵の運搬の護衛にあたりまして…
そんときに、署内でも随分と
話題になりましたから
一度、見ておこうかと
警備強化の名の元に……」

「つまり、タダで見たんですね
仕事にかこつけて」

と、呆れ顔で言う美雨に

「美雨さん、随分と言うように
なりましたよねぇ
杜さん、帰ってきたら
引いちゃいますよ
あっ、でも、もし、
杜さんにフラれちゃったら
僕がいますから、ご心配なく
いつだって
僕はウェルカムですからね」

と、相変わらず
あっけらかんとした調子で
話す岡崎

「それで、どうでした?
実物は?」

岡崎の戯言には一切触れず
絵の事のみを興味ありげに聞く美雨に

「ええ、とても大きかったですね」

と、岡崎は答えた

「えっ……、それだけ?他は?感想とか…
感動したとか何とか…ありませんでしたか」

予想外の返事に美雨は慌てて聞き返した

「えっ、ああ…
そうですねぇ、正直、
絵の事はよくわかりません
ただ、モルフェウスの目覚める様子は
とても官能的に描かれていました
なんとも言えない色気というか…
セクシーでしたねぇ、
若き青年のその表情が…
いや、誤解しないでください
僕はいたって、ノーマルです
そういえば、杜さんにどことなく
似ている気がしますね
とても美形で謎めいてるところとか…」

その言葉を聞いて
杜と初めて体を重ねた日の事を思い出す

杜の美しい寝顔
そして
目覚めた時のなんとも言えぬ色香を

不意に杜への思いが美雨の心を惑わせる

「杜さん…帰ってきますかね」

いつになく、美雨の弱気な発言に対して
岡崎は

「どうでしょうね」

と、冷たくいい放った

「えっ……」

随分とそっけない岡崎の言葉に
美雨が戸惑っていると

「だって、美雨さん
待つんでしょ?杜さんの事
決めたんですよね?
ずっと、待つって
きっと、戻ってくるって
信じる事にしたんなら
余計な事は考えない事ですよ

僕はね、美雨さん
こいつが怪しいなと思ったら
兎に角、マークして張り付くんですよ
自分の勘を信じ抜くためにも
徹底的にね
だから、その間は他のやつにまで
疑いかけたりはしないですよ
余計な事を考え出すとキリがないですし
何よりも考えが
ぶれるんです
だけど、上司にはいつも叱られてます
お前の捜査は偏りすぎだって」

珍しく真面目な顔で答えた岡崎は
直ぐにいつものトーンに戻ると

「ところで、
珈琲のお代わり貰えますか?」

と、言った












「ところで、
神村さんどうしたんですか?
例のかの子さんの事が片付いたので
その報告をしに今日は来たんですけどねぇ」

と、二杯目の珈琲を飲みながら
岡崎が聞いた

「ああ、オーナー今、
パリに行ってます
以前に知り合った調理器具を
取り扱ってる店の
女性に会いに行きました」

「女性に?」

「ええ、一応、仕事とは
言ってましたけど
本当の所はわかりません
それより、かの子さんの事、
早く、教えて頂けますか?」

美雨は岡崎がここへ来て
一時間も無駄話ばかりをして
そんな大切な話を
後回しにしていたことに
少し、苛立ちを露にしながら
問いかけた








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