モルフェウスの誘惑 ※SS追加しました。
「美雨さん、怒ってます?
いや、僕もね、ここへ来て直ぐに
お話しようと思ってたんですよ
だけど、折角、美雨さんと
二人きりなのにもったいないなぁ………
えぇーっと、経緯を話します」

美雨のいつになく
鋭い視線にさすがの岡崎も
姿勢を正すと
ゆっくりと話し出した

「まずですね
結論から申し上げますと
かの子さんに対して
罪を問うことはありません」

まず出てきたその言葉に
そっと胸を撫で下ろす美雨

「神村さんと美雨さんが
被害届を取り下げた事と
後はまぁ、ね
地獄の沙汰もなんとやら…
一ノ瀬氏が
多額の保釈金を即日用意したそうです
普段の僕なら真っ向から
立ち向かう所ですけど
今回に関しては、それもありかなと
思うようにしました
それに美登さんのお父上も
随分と奮闘されましてですね
検察も特例の不起訴と
判をついた訳です」

「そうでしたかぁ
美登さんのお父様が…
お父様はかの子さんの事、
知ってらしたんですね」

「ええ、かの子さんが
ご婚約されたのをきっかけに
一ノ瀬夫人が話したそうですよ
当初は複雑な思いをお持ちでしたでしょうが
今回ばかりはご自分なりに
我が子を守りたいと
お思いになったんでしょう
弁護士である
ご自分の立場を生かして」

「それで、かの子さんは今?」

「ああ、あの主治医でもある婚約者とやらが
長野の別荘に連れて帰りましたよ
僕はどうも、あの婚約者
まだ、かの子さんの事で何か
隠しているような気がするんですけど
だけど事件は解決しましたから
これ以上、追及するのは止めました
恐らく、かの子さんを思っての
判断だと信じることにしましたから」

美雨はぼんやりと
あの日、かの子が婚約者に
何かをしたような発言があった事を
思い返していた

けれど、こうして
事件が片付いた今、
岡崎同様、その事を気にするのは
止めておこうと思った

と、同時に
邪な思いが美雨の胸を締め付ける

今、この瞬間
もしかしたら杜はかの子と
一緒にいるのではないか

かの子への思いが
また杜を支配しているのでは
ないかと
思わずにはいられなかった

杜を信じろと言う
先程の岡崎の言葉を
素直に受け止めるほど
美雨の心に余裕は
もう、なくなってきていた

















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