モルフェウスの誘惑 ※SS追加しました。
***


結局、事件の真相は謎のままだった
警察も店内は荒らされたといえ
それ以外に、被害もなかった事から
ちょっとした怨恨からの行き過ぎた
イタズラだったのだろうと
極端に捜査の規模を縮めてしまった

「一応、店の鍵、美雨ちゃんに預けとくよ」

と、言うと雑貨屋オーナー
神村 駿太郎は新しい商品を仕入れるべく
あっという間に旅立っていった

それから、暫く美雨はとても穏やな
日々を送っていた

美雨があのどしゃ降りの雨の日に
サインをしてから
2ヶ月以上が過ぎ
少しずつ秋の気配すら感じるようになっていた

美登の事務所での仕事も
今ではむしろ
美雨なしでは上手く回らないくらいだった

「美登さん、この前の件ですけど先方に連絡して頂けましたか?昨日、また催促の連絡ありましたよ、早く返事が欲しいって」

「おっ、そうだった。悪いね。すぐ連絡する」

「早急にお願いします。それから一ノ瀬さん、領収書貯めるの止めてください。困るんです。後で日付とか前後しちゃって面倒な事になりますから。取り合えずの分、出しちゃってください!」

てきぱきと仕事をこなす美雨を見て
美登は肩をすくめ
杜は無表情な顔を少し歪め
チッと舌打ちする

杜は少しずつだが、こうして
美雨にも表情を見せるようになっていた

美雨もそれに気づいていた
笑うことさえないものの
こうして、ほんの少しでも
日々の生活の中で感情を現してくれる
ということが、何よりも嬉しかった
そして、やはり
自分は一ノ瀬 杜に惹かれているんだと
いうことを認めざるを得なかった

絵を描いているときの杜は
とても柔らかい表情をしていた
決して笑ったり
ほんの少しでも笑みを浮かべる事すらも
ないが、普段に比べるとその表情は
柔らかかった

ただ、目だけはいつも
悲しい色をしていた

どうしてこの人は
これほどまでに
心に雨を降らせているのだろう

何故、こんなにも
悲しい色の瞳をもっているのだろう

その瞳で一体、何を見ているのだろうか
心の雨が止むことは有るのだろうか…

その雨を私が止ます事は出来ないのだろうか







美雨は杜を愛しつつあった













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