思春期の恋
剣道部の後輩達は、新部長の指示に従って一斉に竹刀を振り始めた。
その脇で、柊司は正座をして手ぬぐいを頭に巻いていた。
おでこを出した柊司が面と小手を着け立ち上がり、竹刀持って柔軟したり素振りをしたりし始めた。
かっこいいな・・・
するとひとりの部員が練習からはなれて、
防具をつけ、柊司に向かって一礼した。
そして、お互い向き合って竹刀を合わせてしゃがんだ。
「はじめ!!」と言った柊司の声とともに、ふたり立ち上がって、稽古が始まった。
柊司は何度か後輩にアドバイスをしながら、稽古をつけていた。
動きが早くて、何がなんだかわからん。
でも、やっぱかっこいい・・・
さっきまで、あんなに周りの視線が気になっていたのに、
今は全然感じない。
ずっと柊司を見ていたかった。
剣道をしている柊司は、
優しく笑う柊司とは、別人のようだった。
目が追いつかないほど、素早い竹刀の動き、
ドンッと強く踏み込んで行く足さばき、
ただ竹刀を構えているだけでも、その堂々とした姿から、
何か近寄り難いオーラのようなものを感じた。
もう、泣き虫の柊司じゃないんだ
そう思った。
柊司と後輩がお互い一礼して、稽古が終わった。
後輩は、部員達の練習に戻った。
柊司は、体育館の隅っこに正座をして、
防具をはずした。
そして手ぬぐいを取ると、頭をぶんぶんと振って、
髪をパサパサと揺らした。
防具を持って私の元へと歩いてきた。
近くで見たら、髪が汗で濡れていた。
「着替えてくるから」