君のいる世界

ー大輝sideー





誰もいない浜辺に腰を下ろし、広大な海をぼーっと眺める。


地平線がどこなのかわからない程の真っ暗な海は、まるで夕方とは別物のようだった。


空にはくっきりと半月が浮かび、薄い雲に隠れては姿を現している。




あれからどのぐらい時間が経っただろうか。


こうして海を眺めていると時間が経つのを忘れてしまう。




俺は何かあるとこの街に来て、何をするわけでもなく海を眺める。


こうしていると親父が隣りに座って話を聞いてくれてるような安心感があって、悩みや醜い感情が緩和されいつも穏やかな気持ちになれた。




ここは親父が事故に合うまで俺たち家族が住んでいた街で、どこを歩いても親父との思い出が詰まっている。


駅前の花屋で顔を真っ赤にしながら母さんの誕生日に花束を買ってる親父。


国道沿いの玩具屋のショーウィンドーに飾ってある大型船のプラモデルを見て、子供のころ船長になるのが夢だったと俺に熱く話してくれた親父。


海の見える産婦人科で春音や大和が生まれた時、涙を流して喜んだ親父。




目尻に皺を寄せて白い歯を見せて笑う親父が、俺は大好きだった。




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