雨、ときどきセンセイ。
「別に怒ることなんてないですけど?」
「じゃあ、あからさまに逃げなくてもいいじゃないですか」
「ただ、色々と詮索されるのは好きじゃない。……こんなふうにね」
センセイの声色はいつものほとんど変わらない。
でも、どこか冷淡で、突き放すような雰囲気と口調を感じた。
「詮索なんてっ。ただ、前から伝えてますが、私は真山先生のことが」
香川先生の切羽詰まったようなその言葉の続きはいとも容易く想像出来た。
『好きだから』
絶対、後に続く言葉はそれしかない。
幸か不幸か。
センセイが少し開けたままの音楽室のドア。
その隙間から聞こえてくる会話に私は罪悪感を感じながらもそのままそこに居た。
「好きなんです」
すると、予想通りの言葉が響く。
センセイ……。どうするの?
なんて答えるの?
私の目の前で――。
再び目をぎゅっと閉じると同時にセンセイが言った。
「初めから言ってたはずです。あれは『一度きりだ』と」
『一度きり』……?
それは何のこと?
デートでもした?
キス?
それとも、もっと先の……。
耳を塞ぎたくても塞げない。
聞きたくないのに聞いてしまう。