雨、ときどきセンセイ。

「現国の教師のあなたなら、言葉の意味、理解出来ますよね?」
「……っ」
「根も葉もないことに、一度でも付き合ってやったんだ。いい加減、理解してくれませんか」


その最後のセンセイの言い方は、私が知る中で一番冷たく、鋭い。

その言葉は私に向けられたものじゃないのに背筋が凍る感覚を覚える。


「……!!!」


思わず声を上げそうになったのは私。

急に頭に手の感触が降りてきて、ビクンと体を硬直させた。
その手はもう私の頭の上にはないけれど、絶対に偶然なんかじゃないはず。

恐る恐る振り向くと、センセイの手がちょうど目の前にあった。


「……?」


その手から視線を上げても、目の前の厚い扉とこの角度からじゃ、センセイの顔が見えることはない。

再びセンセイの手に視線を戻すと、“しっしっ”と追い払うようなジェスチャーをしていたのに気付いた。


あ……。
『ここから早く居なくなれ』って言ってる……?


そう解釈した私はとりあえず深く考えずに音を立てないようにそこから移動して、再び廊下の角へと体を隠した。


「はぁ~……」


聞こえない程の小さな息を吐いて私はまた、音楽室の様子を窺う。
すると、センセイは私がいなくなったことを確認し、香川先生に言った。


「大体、生徒を巻き込むなんて大人げない。それとは関係なくしても、申し訳ないがあなたの気持ちには応えることはありません」


その言葉の後、すぐに音楽室の扉が大きな音を上げて、静かな廊下にカツカツッとヒールが走り去る音が響いていった。




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