雨、ときどきセンセイ。
最後のセンセイ

……び、びっくりした。

今の走り去る足音は香川先生だ。こっちにこなくて助かった…。


私は壁に背をくっつけて、バクバクとなる心臓を必死で落ち着けようとした。

もう頭の中はごちゃごちゃで。
センセイの言っていた意味とか、この状況とか……。
全然整理出来そうにない。

とりあえず、このうるさい心臓、鎮めなきゃ。


「おい」
「……ひゃ!」


右耳から聞こえてきた声に、今度は心臓が止まるかと思った。

肩を上げたまま、先に視線だけをその声のした方に向けるとすぐ近くに立って居るのがわかった。

そして顔もゆっくりと回すと、センセイと目が合う。


「……盗み見、下手だな」


ぼそりとセンセイはそれだけ言って、また背を向けた。


え……ちょっ……。


そのまま置いていかれるのかと、私は慌ててセンセイの後を追うように一歩大きく踏み出した。

すると、先を行ってしまうと思ってたはずのセンセイは、音楽室のドアを開けたままこっちを見てた。
そして聞き逃しそうになるくらい、さらりと言った。


「早く」
「……え?」


きょとんとして、その場から動かずにセンセイと向き合った。
そんな私に、センセイは少しイラついたような顔をして言う。


「早く入れ、っつってんだろ」
「は、はい……!」


直立姿勢をさらに正して、まるでさっきの式典のときのように返事をした私は、急いでセンセイの抑えていたドアの手をくぐるようにして音楽室へと入室した。





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