雨、ときどきセンセイ。

バタン、とドアが閉まると、今度は私とセンセイだけの教室(空間)になる。


センセイと改めて向き合っても、何から言えばいいのかわからなくて、必死に頭を働かせる。

そんな私を正面から、じっと見るだけで、センセイも動かないし何も言わない。

そんな時間がなんだか落ち着かなくて、自分の弄んでいた手元を見て、ようやく話題が思いついた。


「あっ……の! 『忘れ物』って」


そう。そうだよ!

そもそも『忘れ物』を受け取りに行くためにここに来たんだ。
その『忘れ物』って、未だに何かは思いつかないんだけど……。


そこまで聞きかけながらも、続きが言えない。


本当に何かを忘れていただけで、それを返されたら終わってしまうかもしれない。


そう思うと、この時間を終わらせたくなくなった私は口を噤んだ。

センセイはそれでも何も言わずに、ドアに立ち塞がるようにそこにいる。
しばらくお互いに沈黙してると、久しぶりにセンセイの声が聞こえた。


「……ふ。ヘンな顔」


片眉を上げて可笑しそうに笑うセンセイに私はびっくりして何も言えずにまばたきだけをした。

すると、ますます面白そうにセンセイは言う。


「“わけがわからない”って、そんな顔だな。わかりやすい」
「ん、なっ!」


んなこと言ったって!

事実、わけがわかんないことばっかだし!
『忘れ物』の実態や、ここになんで香山先生が居たのか。そしてさっき聞こえてた香山先生との会話。

全部全部、わからないことばかりで。


大体、ここに、こうしてセンセイが私と向き合って……笑ってるのは、なんで?





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