雨、ときどきセンセイ。


「今日は乗せてくれるんですか」


生徒玄関と職員玄関が異なるために、私たちは駐車場で落ち合った。
白い車に視線を向けながら私が聞くと、あっさりとこう返って来た。


「いや。俺はこれから残務処理があるから」


すごく期待したのに、この仕打ち。
ほんと、センセイって飴と鞭を使い分ける天才だと思う。


私が面白くない、って顔をしていたのがばれたのか、センセイが口元を手で抑えて短く笑った。


「どーせ、からかって楽しんでるんですよね? いーですよ。別に」
「そう膨れるな。今日は? と聞かれたから無理だって答えただけだ」


そしてセンセイは車の助手席側の扉を開け、シートから何かを手にしてまたドアを閉めた。


「ほら。忘れ物」


差し出されたものは、見憶えのある傘。


「これ……拾って、持っててくれたんですか……?」


飛ばされてどこかへ行ってしまったと思っていた、水玉柄の傘。

それをわざわざあの時に拾って、この2ヶ月間ずっと?


「存在感ある柄でいい口実になった」
「口実?」
「ずっと助手席(となり)に乗せてたら、他の生徒が“乗せてくれ”って言わなくなった」


……え。
ずっと、あの席に置いていてくれた?
私の傘を?


「なんか、複雑」


未だにそこに座るのを許されたことがないのに、約2ヶ月もの期間、自分の傘が乗せられていたなんて。
こんなこと思うなんてバカげてるとは思うけど。
でも、ふと思っちゃったんだもん。

“特別扱い”されていた傘が羨ましいって。


傘を大事にしてくれていた嬉しさと、そのくだらない羨望とで、百面相をしていた私を見たセンセイは呆れ顔でほっぺをつねった。


「い、いひゃっ……!(痛っ)」
「アホ。んな顔しなくても、これから幾らでも機会はあんだろ」
「ほ、ほれから?(これから)」
「お前……敏感なんだか鈍感なんだか……」


センセイの手が頬を離れて、頭にポンッと乗せられた。

それとほぼ同時に、再び頬にある感触を感じた。
ポツリと頬に当たったそれは、明るく晴れた空からは想像出来ない――天気雨。


「う、ウソ! まさかこんな晴れてるのに」


私は慌てて戻ってきた水玉の折りたたみ傘を広げてセンセイの頭の上にさした。


「…すぐあがる雨だ。今日はバスで帰れ。そのお詫びと――まぁ、卒業祝いに…なんかあるなら言ってみろ」


優しく、くしゃっと掴まれた髪がくすぐったい。

必死でその問いの答えを考えてたのに、見上げた先のセンセイの柔らかな笑顔に何度も思考をリセットさせられた。
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