雨、ときどきセンセイ。
「……ケータイの番号」
次第に私が手にした傘から大きな音が響いてくる。
その音にかき消されるくらい、ようやく口にした言葉がなんとも陳腐だと、自分で飽きれた。
「そんなもんでいいのか」
センセイも同じこと思ったみたいで、苦笑して言う。
その返事に慌てて私は言葉を続ける。
「せ、センセイの住んでるとこを知りたい」
「ふーん」
「センセイの休みの日も」
「あとは?」
赤い影の狭い空間の、まだ止まない雨音の中、私たちは見つめ合う。
「センセイの、隣」
「……」
「センセイの隣で、センセイの声を聞いていたい」
あの、雨の日のセンセイを思い出す。
俯いた先を見る、なんとも言えないあの瞳が印象的で。
それから密かに思っていたこと。
その儚く消えそうな目の色をしたセンセイに、少しでも光を映し出して欲しくて。
そして願わくば、その瞳に居るのが自分なら、と何度も何度も思って追い掛けた。
「……欲張り」
傘の柄を持つ私の手に、センセイの手が重なった。
『欲張り』と言われた私は、否定しなかった。
まさに今、心で自分のことを同じように思ってたから。
「でも、どれも簡単な要求だな」
そうかな。
私はそう思わないよ、センセイ。
そんな優しい言葉を、太陽を反射させている雨粒のように輝く目で言ってくれてること自体が奇跡。
だから、私にしたら『簡単』だなんて思えなくて、どれも難しい要求のつもりで。
重ねられた手に視線を落としたあと、ゆっくり顔をあげるとセンセイの肩が濡れてるのが見えた。
反射的に私はセンセイのその濡れた肩を傘の中におさめるために、手を動かそうとする。
けれど、私の手は思うように動くことを許されず、驚いてさらに視線を上げた。
そこには私の望んでいた、前髪から覗いた黒く輝く瞳に映し出される自分がいた。