ふるさとの抵抗~紅い菊の伝説4~
 美里は重い口を意識をしながら『紅い菊』について美鈴に話し始めた。
 美鈴の属している一族は『菊一族』ていた。『菊』は『鬼久』に通じていて古くから鬼の血筋を引くものとされていた。一族の多くの者は『もの』と意識を通じることができ、生ける者と死する者との架け橋となっていた。また。中には呪術に長けた者もいて人々の争いに利用されもしてきた。
『紅い菊』がいつ生まれたのかは定かではなかった。一部では武士の時代に生まれたといわれていた。一族の中で呪術に長けた者の遺伝的な要素を掛け合わせていった結果、生まれたともいわれている。その力を争いの道具として利用しようとしたのだ。
 だが、その目的は外れてしまった。『紅い菊』は人々の思い通りにはならなかったのだ。
『紅い菊』は『もの』の気を吸い込んでその力を増大させていく。多くの『もの』は憎悪や嫉妬、妬みなどの思いを強く持っている。『紅い菊』はそれらの思いをも自らの体の中に納めてしまう。そのために時がたつにつれてその力を制御できなくなり暴走してしまう。
 それは非常に強い破壊行動となって表に現れてしまう。
 それは個人に向けられるものではなく、生けるものすべてに向けられてしまう。その力は相手を選ばず、すべてを飲み込んでしまう。
 それらすべての事象は歴史の闇に葬られてきた。
 唯一『菊一族』の中に伝承として語られてきた。
『紅い菊』は一族の女の中に生まれると…。
 その女が少女から大人になるときに生まれてくると…。
 一族の者は『紅い菊』に対抗する力を探った。
 多くの武器や呪術がその術として使われてきたが『紅い菊』はそれらをすべて駆逐してきた。
 一族は対抗すべき力を持たず、やがて存亡の危機に立たされてしまう。すべての手を尽くし、ただ滅びる運命に身を任せるしかなくなってしまった。
 そのとき、一人の旅の僧が現れ『紅い菊』と対峙した。
 その闘いは三日三晩続き、ついに『紅い菊』は封じ込まれた。
 だが、それは同時に僧の命が尽きてしまうこととなった。
 僧はその命が尽きる際に一つに剣を一族に残した。邪悪なものを退け、その思いを浄化させる剣は『破邪の剣』として一族に伝えられることとなった。『紅い菊』に対抗することのできる唯一の武器として…。
 しかし、その剣は誰もが扱えるものではなかった。その使い手を剣の方が選び、その他の者には決してその鞘から表に出ることhなかった。
 そのために剣に選ばれた者は『伝承者』と呼ばれ『紅い菊』を滅ぼす運命を背負うこととなった。
 そして現在(いま)、『紅い菊』は美鈴に降臨し、啓介が『伝承者』に選ばれた。
「じゃあ私達はその運命から逃れられないのね…」
 美鈴の瞳が哀しげに光る。
「残念だけどね、だけど私はあなたを守り抜くわ。あなたの力が暴走しないように…」
 それは美里にとって悲壮な決意だった。
 たとえ血が繋がっていなくとも一緒に過ごした十四年という時間が彼女にそう決意させていた。
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