ふるさとの抵抗~紅い菊の伝説4~
第三章

介入

 翌日、美里は美しが丘署に小島良を訪ねた。虐待され、ハーリーティに保護されている子供たちのことを相談するためだった。この問題は本来なら児童相談所に持ち込むべきものだとは美里も思っていたのだが、彼らが動き出すためにはそれなりの時間が必要だと思われたし、何故美里がその子供たちのことを知っているのかを詮索されたくないためでもあった。小島であればこれまでも不可思議な事件に関わってきた経緯があるので話しやすいと感じていたのだ。
 美里が刑事課を訪ねると果たして小島は怪訝そうな顔をして彼女を迎えた。小島の傍らには同じ刑事の結城恵がいる。
「どうしました、わざわざあなたが私を訪ねてこられるなんて」
 小島は使い古された応接セットに美里を招きながらそう言った。
「あなたが来られたということは、また不思議な事件が起こっているということですか?」 
 恵がそれに続く。
「ええ、信じていただくことは難しいと思いますが失踪している子供たちのことで…」
 美里はその子供たちの名前を示しながら決壊の中で撮影してきた写真をテーブルの上に並べ始めた。
「こいつは酷い…」
 写真を見つめていた小島が思わず漏らす。
「虐待、ですね?」
 恵の顔が曇った。
「そうです。失踪している子供たちは皆、虐待を受けていました」
「この子たちは何処に?」
 小島は疑念の眼を持って美里を見つめた。
 美里はどのように話したらいいかしばらく考え込み、やがて説明し始めた。
「この子たちは現在(いま)ある場所で保護されています小島さんたちをそこにご案内することはできるのですが、ただ親元にこのまま帰すわけにはいかないと思うのです」
「ある場所というのは…」
「はい、普通の方法では行けないところです」
 美里の言葉に小島と恵はお互いの顔を見合わせた。
 これまでも不可思議な事件に巻きこまれ美里の娘と関わってきた二人は彼女のいうことが嘘ではないことを知っていた。だが一概に信じられないのもまた事実だった。けれども子供たちが失踪している事実も否定することはできないし、この写真が物語っているとおりであるとすれば子供たちには保護が必要であった。
 小島は腕を組み考え込んでしまった。
「鏡さん、児童相談所には相談されたのですか?」
 恵が美里に問いかける。
「いいえ、まだです。粋なるこういう話を持ち込んでもにわかに信じてはもらえないと思いましたので、まずこちらに伺ったのです」
「私たちなら信じると?」
「はい、これまでの経緯もありますから」
 美里の言葉は素直に二人の刑事に伝わった。
 そのとき、考え込んでいた小島がようやく口を開く。
「そうですな、ここで考え込んでいても事態は変わりませんね。とにかくその場所に行ってみましょう」
 小島は美里の思惑に同意するとともに、恵に対して指示を出した。
「嬢ちゃん、児童相談所にこのことを伝えてくれ。彼らにも同行してもらう」
 恵は小島の言葉を受けてオフィス用の電話機のプッシュダイヤルを押していく。
 程なく相手が出たのであろう、恵は事の次第を説明し始めた。ただし一般の人間が信じられないところは言葉にしなかった。
 美里は難しい第一歩を踏み出せたことを確信した。
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