ふるさとの抵抗~紅い菊の伝説4~

破壊

 キメラは手強かった。
 無数に生える触手が横尾の銃弾をことごとく遮ってしまうのだ。
 そのために横尾は有効な一撃をキメラに与えることができないでいた。今のところキメラが優位な位置をとっていた。だが、横尾はそんな状況を楽しんでいるように笑っていた。
 キメラの触手は横尾の銃弾を受けるとその箇所から寸断されそこから首の方が地面に落ちていく。だが、その度に破断したところから新たな触手が生えてくる。その結果、触手の数は変わることがなかった。
 触手は銃声が響くとその本体を庇うように盾となり、銃声が途切れると槍のように横尾を貫こうとした。
 横尾はその槍を交わしながら部レットの引き金を引き続けた。しかし、その銃弾がキメラの本体を貫くことはなかった。
 時が経つにつれて横尾の動きは鈍くなり、槍と化した触手によって皮膚が破られていく。
(このままでは、まずいな)
 横尾の本能が警鐘を鳴らす。だが、彼の笑みが消えることはなかった。そう、彼はキメラとの闘いを心の底から楽しんでいるのだ。
 そんな横尾の時間を遮るような声がキメラの向こうから聞こえてきた。
「やあ、苦戦しているようだね?」
 その声は少年のように悪意のないもののように聞こえてきた。しかし、同時に悪意のある大人のような声にも似ているように思えた。
「誰だ、この忙しいときに声をかけるのは」
 横尾は苛立つ声で何処とも知れずに話しかけてくる声に言った。
「僕はここだよ」
 声の主は不意にキメラの背後から姿を現した。それは高校を卒業したばかりの青年のように横尾には見えた。それは田宮宗一だった。
「こいつはお前さんの仕業かい?」
 キメラの攻撃をよけながら横尾は田宮に言った。
「そうともいえるし、そうでは無いともいえる」
 間延びした田宮の声が帰ってくる。
「そろそろ加勢が必要なんじゃないかな?」
「馬鹿を言うな。こんな楽しいことに他の人間の手など必要なわけあるか」
 横尾は弾んだ息の中、そう答えた。
「遠慮はしなくて良いよ。もうじき君のお仲間の『Hunter』達がやってくる」
「どういうことだ?」
「僕が手配したのさ。少し『もの』をぶら下げてやれば彼らはそれに釣られて動き出す」
 田宮は残忍な笑みを浮かべた。
「それに『Red chrysanthemum』も近くに来ているしね」
 キメラの触手が横尾の左腿を貫いた。
「ほうら、あんまり無理をしない方が良い」
 田宮はそう言い残すと現れたときと同様、キメラの背後に消えた。それと同時に道の両端から無数の銃声が聞こえてきた。
『狩人』達だった。
「待て、貴様…」
 横尾は消えていく田宮に向かって叫んだ。しかし、それは空しく響くだけだった。
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