君と、世界の果てで
陸は、悔しそうに言った。
「スランプから抜けたら、また弾くって信じてたのに……
婚約だって。
ただの会社員になるんだって。
逆に、パンクだよ。
ウケる」
「……」
「……あの子は、……紗江ちゃんは、兄貴をパーツとしか見てないのに」
「パーツ?」
「自分の夢を形成する、都合のいいパーツ。
イケメン長身、一流大学出身の社長の息子。
自慢の旦那。
可愛い子供の種」
「そんな言い方……」
「するよ。
俺、あいつ嫌いだもん」
あたしはそれまで、陸が誰かを恨むなんて、想像もしなかった。
いつも、静かで穏やかな海みたいな人だったから。
「あいつ、昔……お前と会う少し前、俺と付き合ってたんだ」
「え?」
「好きじゃなくても良いんだって。
あいつも、俺の実家と顔が好きだったんじゃないかな?
俺は……若かったから。
一回女の子とヤってみたくて……
バカだったなぁ」