結婚白書Ⅲ 【風花】

1.日常



明日の予定を確認しながら 手帳にはさんだ二枚の写真に目がいく

別々に撮られた二人 一緒にファインダーに収まる日がくるのだろうか



「そろそろ会わせてもいいんじゃないの?

大きくなってから会わせるより 今頃の年齢の方が

すんなり受け入れると思うわよ」



姉からもらった電話を思い出していた

”チビちゃんにも長く会ってないから ぜひ会いたいわ” 

両親も帰国するので 顔を見せて欲しいとも言われた





「遠野課長 お子さん可愛い盛りでしょう ウチの孫と同じ頃でしたね 

寝返りしたと 娘が 孫の写真を送ってきましてね」


「お孫さん早いですね ウチのは寝返りしそうでなかなかです 

あとひと息なんですが」



課長補佐は初孫だということで 同じ頃に生まれた子供の話をよくしてくれる



「課長にとっては初めてのお子さんだから心配でしょうが 大丈夫 

いつかは みんな這って 立って 歩くんですから」


「そうですね 気長に待ちます」



そう答えたが 上にも一人 子供がいるのだと告げることはできなかった

もう一度 二枚の写真に目を戻した

賢吾がどんな反応をするのか それが心配で いままで兄弟が生まれたことは

伏せてきた


朋代の気持ちも聞いてみなければ……

手帳を閉じて 帰宅準備をした





自宅の前に来ると 元気に泣く子供の声が 部屋の中から聞こえてきた



「おかえりなさい 帰ってきた早々悪いけれど ちょっとこの子をお願い

夕方の忙しい時間になると泣き出して 夕暮れ泣きって言うんですって」



背広の上着を脱いだだけで 顔を真っ赤にして泣き叫ぶ子供を渡された



「ごめんなさいね お野菜を切る間だけ抱っこしててね」


「いいよ こいつ顔が真っ赤だ よっぽど ほっとかれたんだなぁ」



この頃動きが活発になり 自己主張を始めた我が子の顔をのぞきこむ

抱かれたことで安心したのか 次第に泣き止んで笑顔を見せてくれた



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