結婚白書Ⅲ 【風花】



和史とは あれ以来 気まずい関係になっていた

仕事で何度か顔を合わせたが 互いに素知らぬふり

忙しい時期に入ったため 時間もなかったが とりたてて会いたいと

思わなかった

夏が過ぎた頃だった



「ねぇ 野間さんとどうなってるの?」



水城さんが時々心配して聞いてくれる



「……なるようになるわよ」



「実はね」 と言いにくそうに教えてくれた

和史がアルバイトの女の子と付き合っているらしいと 

水城さんのご主人が言っていたと



「いいんじゃない 特別約束をしてたわけじゃないし お互い自由だもの」



水城さんの前ではそう言った

でも……

本当は腹立たしかった

あんなことで私に見切りをつけるなんて

私たちって そんなに浅い関係だったの?



やるせない気持ちが 私の顔を暗くさせていたのか

珍しく遠野課長が話しかけてきた



「桐原さん 何かあったのかな まさか 彼と別れたなんてことないよね」



思いもかけない問いかけに驚きながら そんなことを言う課長が可笑しかった



「課長でも冗談を言うんですね」


「あれ? 違ったのか てっきりそうだと思ったんだけどな」



と本気とも思えぬ顔 

メガネの奥の目は 少し笑っていた 

ポンと私の肩を叩くと 優しい顔で言った



「じゃぁ 明日空港で」



静岡の出張は 遠野課長も一緒だった



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