結婚白書Ⅲ 【風花】


一日目の会議 二日目の視察

どちらも満足のいく内容だった 開催県の力の入れようがよくわかる



「これだけ盛況だと 来年やりにくいですね」



課長補佐は 年配者らしい心配をしていた

全国各地に赴任している元同僚や 友人達に会えるのも楽しみたっだ



「遠野 どうだ 思ったより暮らしやすいだろう 

俺も もう2・3年居たかったよ」



そう声を掛けてきたのは 私の前任者で同期の前田だった



「あぁ そうだな そっちはどうだ?」


互いに近況報告をしながら 情報交換をする




視察が済むと現地解散になり 皆はそのまま空港に向かったが 

私は自宅に帰るため別行動をとった

新幹線ホームで意外な人物に出会った



「桐原さん」



名前を呼ぶと 彼女はこの前のような 華やかな笑顔を向けてくれた




「兄夫婦のところに遊びに行くんです」



お兄さんが東京に住んでいると教えてくれた

小さな甥御さんに会うのが楽しみだとも言っていた



「課長はご実家に帰省されるんですか?」



彼女には 私が単身赴任だと告げていなかった

話の流れで自宅に帰るのだと言うと



「そうだったんですか 一人暮らしは大変ですね 不自由なことがあったら 

遠慮なくおっしゃってくださいね 

マンションも近いし すぐに駆けつけますから」


「ありがとう じゃあ そうさせてもらおうかな 

病気で倒れたら 真っ先に桐原さんに連絡するよ」



”ホントですよ これでも少しは頼りになりますから”と 

真剣な眼差しで言ってくれた




東京までの短い時間 彼女との会話は楽しく

職場では見たことのない顔がそこにあった

クールな印象の強い彼女だったが そんなこともなく

弾力性のある考えを持った 芯のしっかりした女性だと認識した

自分の意見をハッキリ言う口は 口元がキュッと締まり 

それが 今まで気の強い印象を与えていたが 

今日は いつもより明るいルージュがよく似合う

柔らかい色を帯びた唇だった




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