結婚白書Ⅲ 【風花】


「息子と二人であちこち出掛けたよ 妻は旅行で居なかったからね」



えっ?と 小さく叫んで 彼女が振り向いた


「課長が帰ってくるのに 奥様 旅行に行かれたんですか? そんな……」


「あぁ 私がいなくても あっちは実家で両親と楽しそうにしてたよ 

こうなると単身赴任も辛いね」



自嘲気味に しかし たいした問題ではないように言ってみた



「あんまりです 可哀想……課長が可哀想 

私だったら 絶対そんなことしません」



今にも泣き出しそうな声がした

そして くるりと私に背を向けた



「桐原さん ありがとう でも 君が心配してくれなくても 

これは私の問題だから……

余計なことを言ってしまったね」



また ”課長が可哀想です” と小さく声がした

抑えていた感情が私の中から溢れてきた

後ろから 壊れるくらい きつく抱きしめた



「ごめん 君を泣かせるつもりじゃなかったんだ 

誰かに聞いて欲しくて つい……

少し このままでいてくれないか」



コクンと頷くと 私の手に彼女の手が重なった



「私 課長が好きです」



それは 予期せぬ告白だった






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