結婚白書Ⅲ 【風花】


「思ってはいけない人だとわかってます 

自分の気持ちをずっと押し込めていました

でも どうしようもなくて…… 

私にだけ 特別な笑顔を見せてくれているみたいで 

そんなことないのに そんなはずないのに……」



彼女の告白が続く



「遠野課長は素敵な上司なんだ ただそれだけだと思い込もうとしてました 

でも それはウソです

やっとわかりました 貴方が好きです」



もう抑えきれない 

彼女の体をこちらに向けて もう一度抱きしめた



「それは私が言う言葉だ」



驚いた顔が私を見上げている



「この唇に 何度触れたいと思ったか……」



彼女の唇に指をあて つーっとすべらせた



「私も同じように思っていた 

君が私にくれる笑顔は 私だけに向けられているんじゃないかと

そうだとしても 君には野間君がいる

こんな風に思うこともいけないことだと知っている 

でも この思いだけはどうしようもなかった」


「彼とは もうなんでもありません 彼 他に付き合ってる人がいるみたい」


「えっ? じゃあ この前沈んでたのは……そうか……悪いことを言ったね」



うぅんと 彼女が首を振った



「一度だけ 君の唇に触れてもいいだろうか」



彼女の艶やかな唇が私を激しく誘う



「私もお願いがあります 一度だけ 名前を呼んでください」


そう言うと 静かに目を閉じた

それが彼女の答えだった




彼女の形のいい耳が 私の声を待っている



「朋代」


「はい」


「朋代……私の名前も呼んでごらん」


「遠野課長……」


「そうじゃない 名前だけ」



耳に唇が触れる



「遠野さん……」



私は唇を彼女の肩に押し当てた

胸元の広くあいたカットソーは 彼女の肌を美しく演出している

肩から首筋へ そして顎へ 私の唇が触れるたびに 彼女の口から息が漏れる


艶やかな唇は 更に赤味を帯び 私の訪れを待っていた




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