結婚白書Ⅲ 【風花】
13.逢瀬


週末は 私のマンションで一緒に過ごすことが多い

飲み会の後など そのまま ここに泊まり 翌日は一緒に出勤することもあった

いつのまにか 彼の着替えも私の部屋に置かれていた



「こっちに引っ越してこようかな ここなら食事にありつけそうだ」


「わぁ ひどい ご飯が目当てなの?」


「まさか 朋代が目当てだよ」



臆面もなくこんな言葉がでるくらい 私達は親密になっていた


彼のすべてを受け入れた

それは 私に苦悩と喜びをもたらした


遠野さんに出会うまで 既婚者との恋愛は 私の中に存在しなかった

そんな状況に自分が陥るとは 想像すらしなかった

こうして二人だけで会っていると 彼に家族があることなど忘れていた

しかし いったん外に出ると自由に会えない辛さを味わった

それでも彼との関係を考え直すとか 解消するとか

そんな気持ちは湧いてこない


自分の情熱に 自分自身驚いてもいた

いまはまだ 辛さより喜びのほうが大きいからそう思えるのかもしれない


彼と肌を合わせるたびに 新しい自分が見えてくる

男性にも恋愛にも どこか冷めていた私が 

こんなにも 自分を出せるようになれたのは 彼との出会いがあったから

今は この喜びに浸っていたかった 



「朋代は意外と胸が大きかったんだね 着やせするんだろうね」



そう言いながら 胸のふくらみを指でなぞっている



「意外とって失礼ね そんなこという人には貸してあげない」



彼にくるりと背を向ける



「怒ったの?」



背中から抱きしめて

胸の丸みを確かめるように 手の中に収める



「怒った朋代の声もいいよ」



低くて柔らかい声が 私の耳に心地よく響く




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