結婚白書Ⅲ 【風花】
2.動揺


昨夜の酒がまだ残っているのか ベッドからなかなか起き上がれない 

気だるさが全身を覆っていた

家族に邪魔されることもなく 気ままに午前中を過ごす

一人暮らしの不便さと引き替えに 自由な時間を手に入れた気分だ


地方赴任が決まると 先輩達が口をそろえて言った



「課長といったって 向こうから見れば若造だからな 

課長補佐の扱いが大事だぞ 

それから 地方の女の子には気をつけろよ 遊ぶのは本人の自由だが 

本気になると あとがやっかいだ

お前みたいに真面目なのが一番危ない 遊びが本気になりかねないからな」



遊びが本気か……そんな先輩もいたな

だが 私にはそんな勇気もないし 気力もない 


そんな自分が 妻以外の女性に惹かれることになろうとは 

そのときは予想すらできなかった

彼女に会うまでは……





地方勤務は避けて通れないと 結婚前に言っておいたのに

いざ転勤が決まると 妻は一緒に赴任するのをためらった



「この子 来年小学校の受験なのよ 塾もあるし 赴任は2年間でしょ? 

あなただけお願い

2年後に帰ってきても公立の小学校しか入れないわ 

この子の将来がかかってるのよ」



建前は子どもの受験だが 妻が自分の生活も変えたくないのは明らかだった



「たまには私も行くわ 学生時代は一人暮らしをしてたんだもの

大丈夫よ あなたはきれい好きだし お掃除も心配ないわね」



妻は自分に都合の良いことばかり並べた

住まいにしても



「官舎はいろいろお付き合いが大変そうだし 

たまに私が行っても 気兼ねしないところが良いわ

マンションを借りましょうよ それなら私も行きやすいから」



官舎の人付き合いを敬遠してか 結婚してすぐにマンションを購入しようと

言い出したのも妻だった





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