結婚白書Ⅲ 【風花】


車を止め 堤防に降り立ったが風が冷たかった



「わぁ 寒い」



思わず腕を合わせた途端 ふわりと温かさに包まれた



「薄着をしてるからだよ」



コートにくるまれ 彼の腕の中にすっぽり入った

アルコールが入ってるせいか 彼の体が いつもより熱く感じる


結婚している人を好きになるなんて そんなこと 絶対にないと思っていた

でも この人に惹かれた

自分の気持ちをどうしようもなく 気がつくと 彼の胸に飛び込んでいた


これが私達の出会い

出会ってしまった 


これはまぎれもない事実

どうして普通の出会いではなかったのだろう


抱きしめられても 肌を合わせても 不安と罪悪感をぬぐい去ることは

できなかった

だから いけないことなのかもね……



「どうしたの 黙ってるけど」


「なんでもない 温かいなぁと思って」



それには答えず 向きを変え 彼の額が コンと 私の額に触れた



「不安だよね」


「うぅん そんなことな……」



あとの言葉は 彼の口によって消された

軽く乗せられた唇は いったん離れ また重なり 深く合わされた


私の不安を吸い取るように

強く 深く…… 


堤防の風は冷たかったが 体は充分に温められ

不安だった気持ちも 少しづつ消えていくような気がした




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